第14号 2004年8月
 

「参同契」を語る

原田雪溪
前ヨーロッパ国際布教総監

『参同契』は、教外別伝不立文字を平等(回互)と差別(しゃべつ)(不回互)の相対する二面から巧みに説示し、一方に偏ることが絶対に不可能な仏法の本質を、二百二十字四十四句という短い歌曲に構成された祖師の教えです。著者の石頭希遷禅師は、お釈迦様から数えて第三十五代目の方で、中国における禅宗の初祖菩提達磨大師より六代目の祖師・大鑑慧能禅師の弟子、青原行思禅師の一粒種です。この方の下から石頭希遷、雲巖曇晟、洞山良价と諸禅師が大仙の心(仏心)を相続されて、曹洞宗の系統が生まれました。石頭希遷禅師が青原行思禅師の法を嗣ぐことがなければ、曹洞宗は絶えてしまったということができるでしょう。現在、日本の曹洞宗の寺院では、朝課の際に必ず読誦される経典の一つです。

『参同契』は、二百二十字の短い言葉で、まったく無駄なく禅の源流、仏法の真意が語り尽くされています。また、他の経典は法という立場から話を進めておりますが、『参同契』は法と人(にん)と両方の立場から説いてあるのが特質です。「参」という字は、宇宙の万物は別々の様相を呈しているということ(差別)、「同」は読んで字のごとくあらゆる事物は同一(平等)であるということをいっております。「契」は、契約の契という字で、融合を示しています。この差別・平等・融合の様子を、「雨あられ雪や氷と隔つれど 落つれば同じ谷川の水」という歌に詠んだ方がありますが、万物は差別(法)のままに、傷つけあうことなく融(と)け合っているという意味です。

冒頭の「竺土」は印度のことで、お釈迦様を意味します。「大仙の心」は仏心、仏様のことです。お釈迦様とか仏様というと、礼拝する対象のように考えがちですが、すべて自分自身の様子です。動揺しながらも、その場その場に安住することが「大仙の心」です。「東西密に相附す」の「密」は親密の密で、継ぎ目(隔て)がないということです。禅に、「人人具足箇箇圓成」という言葉がありますが、「大仙の心」というお釈迦様の御心は、紛れもなく自分自身であるということをいっています。

「人根に利鈍あり、道に南北の祖なし」やれば、どなたでもできるということです。「霊源明に皓潔たり」の「霊源」は、空=平等です。濁れば濁ったでよし、明らかならば明らかのままでよし、私たちの一挙手一投足の働きそのものを示しています。「支派暗に流注す」の「支派」は差別です。「流注」は縁に応じて変化する、つまり「霊源」です。元は一つのものが、たまたま分かれて差別や平等という状態になっており、「差別のままの融和」ということを言っています。

このような形で、「事」と「理」、「暗」と「明」など、一貫して差別と平等という二つの面を対比させて、どちらにも偏らないようにと説いておられますが、「回互(平等)」と「不回互(差別)」が、この『参同契』の命と言えるでしょう。「回互」というのは、相互扶助です。自分の体の様子を見ても、眼・耳・鼻・舌・身・意という六根がきちんと独立して働いているように、私たちは自我というものをはさまないで「不回互(差別)」になりきった時、真に自由になり、大きな働きができるようになります。自我(自分)がないということは、時と場所を選ばずものとひとつになっていることです。それを、「回互(平等)」といっています。つまり、差別のままを平等、「不回互」のままを「回互」といっているのです。これを具体的にあらわしたものが、坐禅です。坐禅の目標も、「回互と不回互」は別のものではないということを実証することにあります。曹洞宗では「修証不二」といっていますが、要は自分の見惑や思惑をやめて「ひたすらに坐る」ということです。

「四大の性おのずから復す、子の其の母を得るがごとし」とあるように、自分を含めて一切のものは四大(地・水・火・風)から成っています。四大はすべて因縁生が異なるために差別があるだけで、中心となるものはありません。いつも変化しており、「私(自我)」というものはどこにもありません。「しかも一一の法において、根によって葉分布す」ですから、差別すなわち法そのものであります。その法を行じていくのが、仏です。仏というのは、ただになった人、ただになった人というのは、自分のなくなった人です。

いま、世界中が混沌とした状態になっていますが、混沌の根源は何もありません。だから、参禅弁道という手段によって、よほど各々が自分の存在というものをはっきり、「大仙の心」で法のままに生きていかないと、力の強い者が抑圧をしたり、思想を統一して「平等だ」「民主主義だ」といって人の自由を奪うことになりかねません。ここに、『参同契』の示す深い意味があり、それを伝えていくわれわれ仏教者の重大な務めがあります。

 

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